変身
「稲垣様、お電話です。」
ウエイターの持ってきた電話に、吾郎さんは眉をしかめた。
「今、プライベートだから。」
そんな風に話すけど、結局切れないのは相手のせい?
吾郎さんは立ちあがって両手で数字の2を書いた。
「どうしてこんなこと・・・」
どうやら、それが電話の指示らしい。
吾郎さんは本当に困った顔をしていて、でも私はそれを可愛いなんて思ってしまった。
「ごめんね、ちゃん。」
謝りながら吾郎さんが席についた。
「ううん。でも、何だったの?今の電話。」
「僕のほうが聞きたいよ。なんだってあんなコトさせるんだか。」
また、ちょっと困った顔。
「女の・・・人?」
言ってしまってから「しまった」と思う。
それこそ今は私とのデートっていうプライベートな時間なんだから、他の女性の話なんて、するもんじゃ無い。
「あれ?」
吾郎さんの、吸い込まれそうな漆黒の瞳に見つめられて、私はドキリとする。
何もかも、今の鼓動でさえ見破られてしまうんじゃないかって思えるくらい、大きな、澄んだ、綺麗な目。
「もしかして・・・」
「ち、違いますっ。妬いてなんて・・・いませんっ。」
言われる前に言ってしまおう。恥ずかしいから。
吾郎さんは、くしゃっと笑った。
子供みたい無邪気な表情。
一見近づき難いほどの端整な顔立ちをしている吾郎さんに、こういう顔を見せられると、側にいてもいいんだなって安心する。
「大丈夫だよ、ちゃん。電話の相手はね、仕事仲間。」
吾郎さんの手がグラスに伸びた。
赤いワインが揺れる。
「何考えてるかわかんない奴でさ。・・・困るよね。」
そう言った吾郎さんの顔は全然困っていない。
きっと、大切な人なんだ。顔の見えない電話越しにでさえ、その人の言う通りにしてしまうくらいには。
「もしかして・・・さっきの・・・『変身』ですか?」
これ以上その人の話をしたら、やっぱり妬けてしまいそうだから、私は話題を変えた。
「え? 判るの?」
吾郎さんが身を乗り出した。
「ま、少しくらいは。」
私はちょっと自信あり気に続ける。
特撮ヒーロー物なら、それなりに見てたもの。
吾郎さんも結構好きみたいで、話に乗ってきてくれた。
「だよね。でさ、仮面ライダーアマゾンの時はさぁ・・・」
ちょっと回りが聞いたらコアな会話を、私は吾郎さんと続けた。
「ちゃんがこういう話に詳しいなんて、意外だったな。」
結局、食事中は妙に盛りあがってしまった。
そう、気取って映画や服の話をしてたこの間の食事よりも、なんだかずっと。
「変な奴って思いました?」
そういえば、普通の女の子はあんまり詳しく無いかもしれない。
「ううん。面白いなって。」
「それって誉めてます?」
「もちろん。自分の世界や価値観を持ってるっていうのは素敵なことだよ。
正直言って、俺、ちゃんのこと身近に感じた。」
いつの間にか吾郎さんの一人称が「俺」になっていた。
「私もです。こういう話って、なんだか大人になってからするのって、
妙に恥ずかしい気もしたんだけど、そんなこと全然無いんですね。
吾郎さんとの意外な接点が見つかって嬉しかった。」
私は笑った。
吾郎さんも笑って・・・その後、考える風に額に指をあてた。
「時間、まだある?」
少し上目遣いでそんなセリフを言われて、私はただ頷くことしか出来なかった。
「飲みに、行こっか。。」
本日何度目かの大打撃。
今、今、何て言ったの?
「ダメ?」
小首を傾げられて、私はただ、首をぶんぶんと横に振るしか出来なかった。
「全然・・・ダメ・・・じゃない。」
私の言葉も、素に戻ってる。
吾郎さんはくすりと笑った。
「決定。じゃ、行こ、。」
今はあの電話に感謝してる。吾郎さんに近づくきっかけをくれたから。
お互いに気取ってるだけじゃ、そこまでの付き合い。
いい所も、変な所も、全部含めて私は吾郎さんのこと好き。
吾郎さんもそうなってくれたら、嬉しいけどね。
まずは特撮話の出来る、貴重な女友達の地位をGETかな?
2001.0517
どひゃー。生まれて初めてドリー夢小説書きましたわ。 確認する時恥ずかしいですね。(ちゃんと確認は自分の名前でやったやつ(苦笑)) 主人公の名前「ドリー夢」じゃあんまりだし(笑) 多夢とか来夢とか、夢がらみにしたかったのです。みんな、広い夢見よう?(笑) 意外なトコから発覚する趣味の一致。 吾郎ちゃんは、ガンダムとかモデルガンとか好きですからね、マニアですよね 特撮ヒーロー物も好きだったら、こういう展開もありかもしれないと。 え? 私ですか? 見てたはずだけど覚えてません(爆) このヒロインに感情移入はしずらいかもですね〜。 今度はもっと一般的な人にしよう・・・・・・・って、書いてる人間が〇久だから、無理かも(爆) |