6月の第1週
「はいはい。」
私は足元にまとわりつく猫’sに、今日の夕飯である猫缶をあげた。
猫’sは喜んで餌を食べ出した。
最初にここに来た頃には、敵対よりも悪い、無視からはじまった関係だったのに、どうやらようやく私にも慣れてくれたみたいだ。
私がここ、吾郎の部屋に住みはじめてから、そろそろ1年になる。
お互いの生活リズムが違うから、最初は手探りだった。
干渉し過ぎないように、でも、一緒の時間は居心地良く。
幸い、私と吾郎の趣味は似ていたから、部屋のインテリアとか片付けは楽だった。
私は、女性誌風に言うとナチュラルな感じの、白とベージュを基本とした部屋を眺めた。
サイドボードの上の一輪挿しに、白いバラ。
うん。
呼吸が楽。
ここはもう、私の部屋でもある。
「ただいま。」
レンタルビデオの貸し出し袋を抱えて、吾郎が部屋に戻ってきた。
「お帰り。」
私は猫’sの餌入れを片付けながら答えた。
「ちょっと、何やってたの?」
苦笑しながら吾郎が近づいてきた。
今日は何故か、猫’sが遊んで欲しそうにしていたから、ジャージに着替えて、とことん猫化して遊んでいたのだ。
「猫の毛だらけ。」
吾郎が私の服についてる毛を払ってくれた。
「いいよ。後で掃除機かけて、洗濯して、シャワー浴びるから。」
「じゃ、早めにね。映画見ようよ、映画。」
吾郎がレンタルの袋を開けて、中身を取り出した。
「あ、これ、見たかったの。」
「やっぱり? が好きそうだと思ったんだ。僕も見てみたかったしね。」
「うん。じゃぁ、さっさと済ませてくるよ。」
「その間に軽くつまめるモノでも用意しておくから。」
私はパタパタとカウチポテト状態への準備をはじめた。
吾郎はキッチンへ。ビストロで慣れてるからとはいえ、短時間の内に美味しそうなつまみが何品も出てくる様は、まるで魔法のよう。
思い出したようにまとわりついてくる猫’sをかまいながら、私達は大きなテレビに向かって並んで座って、映画鑑賞。
スタッフロールまでしっかり見てから、簡単な映画評論会が始まる。
「やっぱり、いい演技するなぁ。」
「あのストーリーだと、ちょっと無理がない?」
「演出的に、もっと引っ張ったほうが・・・」
見るポイントは結構似ているけど、二人で話すことによって、より映画を深く楽しめる気がする。
いっぱしの評論家ぶるんだけど、結局は好きか嫌いかに収まってしまったり。
映画の話から、お互いの価値観なんかも見えたりする。
時に喧嘩腰に、時に甘ったるく交わす会話。
そんな会話の続く時間は、凄く心地いい。
「ところでさ。」
映画を肴にワインなんて開けて、ほどよく二人とも上機嫌の時。
「は、専有されるの好き?」
「え? せんゆうって・・・一人占め? 独占と同じ意味の。」
質問の意味が良くわからなくて、吾郎を見ると、吾郎はいつもの笑顔で頷いた。
「そ。」
私は指を額にあてて(これは、絶対吾郎から移った癖だと思う)うーん、と考えた。
「時と場合によるなぁ。でも・・・嫌いじゃないよ、多分。吾郎にだったらね。」
吾郎以外の友達との時間も大切にしてる。
けど、優先順位って確かにある。
「実は僕も、嫌いじゃないんだ。に限るけどね。」
吾郎は悪戯を思いついたみたいな顔をした。珍しい。
「じゃぁ、さ。二人で縛られてみようか。結婚っていうシステムに。」
吾郎の口調は全然普通で、私はその意味を理解するのに数秒を要した。
「えっ? どうしたの?」
あまりにも意外で、聞き返してしまった。10年は結婚しないとか言っていませんでしたか?
「どうしたのって・・・。別に・・・。となら、ずっと一緒にいられそうだと思ったんだけど?」
逆に上目使いで見つめられてしまった。
弱いなぁ、この目には。
「吾郎が良ければ、いいよ。私も、ずっと一緒にいたい。」
私の答えを聞いて、吾郎はくしゃっと笑った。
子供みたいな、無防備な笑顔。
私にだけ見せてくれるって、うぬぼれてもいいのかな。
「では、これからもよろしく、様。」
差し出されたのは左手。
がっちりと握手。
「こちらこそよろしく、吾郎様。」
そして二人で見詰め合って、たまらなくなって吹き出した。
「様だって〜。変〜。」
手を繋いだまま床に転がって、二人して猫みたいに、じゃれあった。
もしかしたら、突然吾郎が結婚なんて言い出したのには、訳があるのかもしれない。
けど、きっと、結婚したってこの生活は変わらない。
一緒にいたいから、一緒にいる。
それが一番素直で、大事な気持ちだから。
2001.0604
何書いてんだ、自分・・・。 いやだから、自分に置きかえるっていうよりも、吾郎ちゃんにはこういう相手と結婚していただきたいな〜と。 最初の名前を○○(伏字)にしようかと、ちょっとだけ考えたけど止めました。 だって、よく性格しらないし。 |