予知
「待てよ。おい、待てって言ってんだろっ!」
走り出す私の左腕を、拓哉が掴んだ。
振りほどこうと腕を引くけど、びくともしない。
悔しいけど、こういう時に自分が女で彼が男だということ再認識する。
「離してよ。」
精一杯恐い目で睨みつけてやろうと振り向いた。
その時。
急ブレーキの音と、大きな衝突音がした。
びっくりして前を向くと、私が今まさに渡ろうとしていた交差点で大きな事故が起こっていた。
もしも・・・私があのまま駆けて行ってたら・・・?
背中がぞくぞくとした。
「だから、待てって言っただろ。」
不機嫌そうな拓哉の声に振りかえると、案の定、口がへの字になっていた。
でも、目は・・・なんだか・・・泣きそうに見えた。
「なんで・・・?」
どうして事故がわかったの? どうして泣きそうな目をしてるの?
拓哉はそれには答えずに、私の体を引き寄せて抱きしめた。
鍛えられた胸は広くて、包まれる感じがした。
「お前が何で怒ってるのかしんねーけど。バカなことすんなよな。」
耳元で呟かれる低目の声に、つい負けそうになる。
でも負けてはいられない。
「誰のせいだと思ってるのさ。」
小さく呟いた。
「あ?」
少し、私を束縛する力が弱くなった。
私は拓哉から離れた。
「私が怒ったりバカなことしたりするのなんて、全部た・・・」
慌てて私は言葉を止めた。
『全部拓哉のせいに決まってる。』なんて、よく考えたら凄いセリフ。
まるで、拓哉が私の世界の中心にいるみたいじゃない。
拓哉は男にも女にもモテるし、すっごく忙しいし、それでいて自分の趣味は追求する人だから、
私の存在は・・・多分小さい。
一度も「好き」とか言われたこと無いし。
なのに私だけが『拓哉を好き』って聞こえる言葉を言うなんて、悔しいから絶対しない。
「た・・・?」
怪訝そうな顔をして拓哉が私を見た。
私は一回深呼吸した。
「拓哉って、鈍感だよね。」
せいぜい嫌味に聞こえるように、私は思いっきり顔をしかめた。
「助けてやったのに、なんだよその言いぐさは。」
拓哉も顔をしかめた。
「助けてやった? さっきのが? 何。事故が起こるのが判っていたとでもおっしゃるんですか?」
すでに喧嘩口調。二人とも止まらない。
「ああ、そうだよ。事故が見えたからお前止めたんだよ。」
「それは凄いですね。じゃぁ、その能力つかって競馬でも当ててみれば?」
私は踵を返して歩き去ろうとした。そんな信憑性の無い言い訳するなんて、拓哉らしくもない。
「お前のことしか見えないんだよっ」
拓哉が怒鳴った。
「・・・え?・・・」
あんまりびっくりしたので、私は怒っていたのも忘れて、振りかえって素の表情で拓哉を見つめた。
「のことしか、見えない。」
諦めたみたいな口調で、拓哉が呟いた。
「それって・・・どういう・・・こと?」
拓哉は長めの髪に指を差し入れ、決まり悪そうに頭を掻いた。
「いいだろ、そんなの。」
「良くないっ。私にとっては、大事なことなんだから。」
私は拓哉に詰め寄った。
「そういう・・・ことだよ。」
あくまで言葉を濁す拓哉の目を、私はじっと見詰めた。
拓哉の、引き締まった、形の良い頬が苦笑を形作った。
そして、お手上げ、といった風に両手をあげた。
「いつでも・・・本当に気になるのは・・・。
だから予知ものことしか見えない。・・・以上。」
私の頭の中に、そのセリフがぐるぐる回ってしまって、私はしばらく呆然と、ただ拓哉を見つめることしか出来なかった。
「・・・」
拓哉が再び、私を抱きしめた。
その暖かさで我に返った私は、おずおずと拓哉の背中に腕を回した。
肩口に顔を押し付けると、拓哉愛用の香水の匂いがした。
拓哉らしい、攻撃的で、それでいて甘い香り。
今でこそ有名になったこの香水を、拓哉に似合いそうだからとブーム前にプレゼントしたのは私だった。
なんだか嬉しくて涙が出そうだった。
「オレの側に居ろよ、。これからも、ずっとさ・・・。」
耳元に落ちる低い声。やっぱり負ける。
私は声に出さず、頷いた。
2001.0524
えー、こちらはF君をおとしいれるためのドリー夢です(笑) 難しいな〜〜〜。 唐突だわ中途半端だわ。ああああ、クンフーが足りない>自分。 今はこれが精一杯〜〜〜。 ちょっとでも照れ照れしてくれたら成功かな。 木村氏の外見的特徴を表記しようとして挫折しました(爆) 想像力でカバーして下さい(願) |