虚構の少年 −螺旋の関係−
「やっと思い出したか。」
光伸は呆れたような、うんざりしたような声を出しながら、それでもあずさの体を撫でている。
濡れてしまった場所を避けて、それでも服の上から内腿を。
「うう・・・ひっく。・・ん。」
あずさは泣きながらしゃくりあげる。
混乱していた。
体の傷が癒えて、そして、覚えてはいなかったとしてもある程度の時間を置き、あの時よりも多少はましな気はするけど、どうしてなのかわからない。
「なん・で。金・・子せんぱ・・いが。」
それが一番気になるけれど、もっと混乱するのは自分の体で。
ずっとずっと、熱いような疼くような、たまらない感覚が消えない。
服を汚してしまって恥ずかしいし、冷たく濡れた感触は気持ち悪いのに、そこはまた勃ち上がっていて。
「俺は要の物だからな。ある程度の汚れ仕事なら、よろこんで引き受ける。」
光伸はあずさの首筋を舐め上げた。
「・・・・はぁ・・ん。」
あずさの体から力が抜ける。むずむずとした感覚が止まらない。
もっと、と訴えるように、白い喉がのけぞる。
「淫乱な脅迫者の相手もする。」
光伸の、内腿に伸びていた手が上に滑り、服の上からあずさの秘孔を押す。
「ああぁ!」
あずさの体が跳ねる。
張り詰めた証がズボンに押さえられて痛いのに、小さな刺激も拾って、快楽に変換してしまう。
光伸はそんなあずさの様子を見て、馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「やっぱり、な。火浦は好き者だなぁ。」
面白そうに光伸はあずさの部位を指で弾く。
「や・・ん。」
止めて欲しいのに、あずさの口から出るのは荒い息遣いだけ。
体が熱くて、どうにかなりそうだった。
「これで、要のことを非難しようだなんて、よく思い付いたもんだ。」
何度も何度も光伸は指で弾くだけの刺激を与えている。
その度に、あずさの体は小さく跳ねる。
「も・くるし・・」
あずさの懇願に、光伸はあずさのズボンの釦を外す。
すでに浮いている腰から衣服を降ろし、あずさ自身を外の空気に晒してやる。
狭い場所から開放されて、それは喜ぶかのように震えていた。
「ああっ! あ・・・」
自由になった雄の部分に軽く手を触れられるだけで、あずさの脳天にまで刺激が走る。
体が勝手にガクガクと震えだし、自分の体なのに自分で押さえられない。
「や・・・あああっ・・・」
声も押さえることが出来ない。軽く握られて上下されてるだけなのに。
その内、光伸の手がすでに濡れそぼった先端を一撫でする。
「あああああっ」
あずさの手が長椅子の表面を握り締める。
自由になっている腕で光伸を払いのけることも出来るはずなのに、今はそこまで頭が回らない。
与えられる刺激が極彩色を纏って脳内に点滅している。
体の奥から沸いてくる熱と欲が体中を巡って、内側から溢れる。
光伸の笑う気配がする。
「もう。か。いや、また。かな。なんにせよ、淫乱だな、君は。」
涙で霞むあずさの視界に、光伸の長い指が見えた。あずさが好きな、形の良い、いかにも育ちの良い、綺麗な光伸の指。
その指に、白く、とろりとしたものが絡み付いている。
それが、あずさの口に押しあてられる。
「ほら。」
嫌がる顎をもう片方の手で押さえられ、濡れた人差し指と中指があずさの口に進入してくる。
鼻につく、青臭い匂い。
舌につく、苦さ。
「美味いか?」
首を振ろうとしたら、残りの3本の指で顎を押さえられ、中の2本が舌の付け根を強く押した。
たまらない吐き気がこみ上げて、苦しい。
あずさの目から、また涙が落ちる。
「美味いか?」
もう一度繰り返される問いに、あずさはただ、頷いた。
光伸は満足そうに頷いた。
「ちゃんと綺麗にしろよ。自分の精液なんだからな。」
あえて口に出される言葉が生々しい。あずさは自分が口に含むものに改めて気付いて顔を赤くした。
指先を濡らすものが白いものから透明なものに変わる。
光伸は音をたてて指をあずさの口の中から引き抜くと、あずさの下肢、雄の部分をかすめるように触りながら、さらに奥の入口を刺激した。
「あ・・あん・・・・はぁ・・・」
口を閉ざす指が無くなって、あずさはまた、切なげな声をあげる。
意識も視界も掠れて、自分がどこにいるかわからなくなる。
「火浦は淫乱だなぁ。」
光伸の声が、体に直接染み込んでくる。
頭を横に振っても、与えられる快楽が逃げるわけでも無い。
あずさの腰は、淫乱と言われても仕方の無い動きを、さっきから勝手にしている。
もっと奥を触って欲しくて。あるいは、もっと前の方を触って欲しくて、身悶えしてる。
「いや・・・・あ。」
なのに、光伸の指はあくまで入口から動かない。焦らすように円を書いて、ほんのわずか指を埋めて、またすぐに抜いてしまう。
「本当は、あの時、要が羨ましかったんだろ?
薔薇の木の下、感じるままに声をあげている要が。」
耳元に、光伸の囁き。
耳朶ぎりぎりから落とされる吐息を、刺激と感じてしまう。
そんなこと、無い。破廉恥で淫乱で、嫌悪すべき存在で。
「自分は淫乱なのを隠して我慢してるのに、要が素直に表現してたのが羨ましくて、そして、ねたましかったんだろ?」
今度は、軽く耳朶を噛みながら。
その刺激自体はほんの些細な物なのに。どうしてこんなに、震えがきてしまうんだろう。
自分が淫乱だから? 違う、違う!
「要を見ていたら、自分の淫乱な部分が外に出てきそうで、それで要を追い出したかったんだろう?」
耳から、首筋へ、触るか触らないかの場所を唇が降りていく。
その下の血管に流れる血が、刺激を全身に運ぶ。
甘く、痺れて行くあずさの体。
「ちが・・・ちが・う・・・」
いつもと違う掠れた声は、自分で聞いても扇情的で。
自分が自分じゃ無いみたいで、混乱してくる。
「そろそろ、認めたらどうだ。」
首の付け根と鎖骨の間を強く吸われる。
同時に、今まで入口を遊んでいた指が、狭い場所を割り入ってくる。
「・・・・・・・・あああああっ!!」
意識が弾ける。意識が溶ける。
気持ちがいい。ただそれだけで一杯になってく。それしか考えられなくなる。
「火浦あずさは淫乱だよな。」
頷くことしか出来ない。もう、それでいい。ううん。きっと、そうだったんだ。
だって、まだ足りない。体の中からまだ、熱が沸いてくる。
光伸が、あずさのシャツの釦を外してゆく。
衣服を全て取り去って、優しく長椅子にあずさを横たえる。
淡い色の胸の突起を舌で転がしながら、放ったばかりの部分は避けて、その下の柔らかな場所を右手に包む。
「ああっ・・・せんぱい・・・」
あずさは、きつく目を閉じる。
優しい指と舌の刺激に、体が勝手に波打つように動く。
恥ずかしくても、止めることが出来ない。
「可愛いよ、火浦。
俺は、得意満面の笑みで俺に物を尋ねにくるお前は嫌いだが、
快楽に素直に顔を蕩けさせてるお前は可愛いと思う。」
光伸の声が優しくなる。
あずさは信じられなくて、目を一杯に見開いた。
「でも・・・ぼ・っく・・」
言葉が途切れるのは、話ながらも光伸があずさへの愛撫を止めないため。
「お前はどうしようも無く淫乱で我侭でお子様だがな。
俺の言うことを素直に聞いて喘いでいるお前は可愛いな。」
指が、またあずさの奥へと進んで入口に当たる。
そんな場所が気持ち好いはずは無いのに、この間は痛くて仕方が無かったのに、今は受け入れるみたいにあずさの入口は蠢いて、光伸の指を飲み込んでゆく。
「んんんっ!」
指の動く感覚に、あずさはきつく目を閉じる。
異物感よりも、気持ち良さのほうが先に立つ。
内側からの刺激に、体が全部溶けてしまいそう。
「あああん。 あああっ!」
気持ち良くて。凄く、気持ち良くて。
あずさの頭に、過去の映像が甦る。
嫌がりながらも喜んでいた母様。あの、卑猥で醜悪で淫乱な、交わりという人間の欲望。
大っ嫌いだった。人に触れるのも、触れられるのも。性欲に繋がりそうなものは全て。
でも、それはもしかしたら、求めていたからなのかもしれない。
あの二人の子供なんだから、僕にも同じ血が・・・卑猥で醜悪で淫乱な血が流れていて。
何かのきっかけがあったら、すぐにもそんな存在になってしまいそうで、怖くて。
ずっとずっと避けていた。
そしてやっぱり、一度枷が外れてしまったら、もう、どうしようも無い。
こんな所で、男同士で。何回も達してるのに足りなくて、勝手に体なんか動いちゃって。
ああ、こんな気持ちの好いことから、逃れられるわけ無いのに。
自分が淫乱だなんて、認めたく無かった・・・のに・・・。
でも、それでもいいなら。僕がどんなに浅ましくっても、許してくれる人がいる・・・なら。
何も知らない虚構の僕なんて作らずに、僕は僕のままでいてもいいんだろうか?
「ふわ・・・あ。」
何時の間にか、あずさの体の中の指は増えていて、それぞれ勝手に蠢いている。
時折それが押し込む固い部分に、あずさの体が震える。
「ああーーー!」
もう、声を抑えようとは思わない。
光伸は自分の右手であずさを掻き回しつつ、左手で自分の下肢に手をやった。
それなりに育っている物を確認して、ズボンのファスナーを降ろす。
計算づくのあずさの狂態で勃つのは若いからか。それとも自分の計画通りに進んだという事実が勃たせているのか。
光伸は無言のまま指を引き抜くと、己をあずさに押し当てて、ゆっくりと体を沈めた。
「ああっ! あ・あ・あっ」
あずさの叫びが部屋に響く。
しかし、その後は叫びよりも甘い響きと熱い吐息と湿った音が部屋に満ちる。
部屋の片隅で炊かれている甘い香が、汗と精の匂いを包み隠そうとしながらも、微妙に残って混ざるそれらのために、甘い中にもどこか卑猥な、毒を篭めた香りになる。
「あん・・・あ・・せん・・ぱ・・」
あずさは薄い胸に汗を滴らせながら、どこか呆けたように口を開き、快楽に呑まれている。
光伸は額に汗を浮かばせながらも、どこか冷ややかな眼差しであずさを見下ろしている。
あずさの指が長椅子を掴み、光伸が抱えている足がピンと張って緊張する。
屹立したあずさ自身からは、とめどもなく涙が流れ落ちている。
「あっ・・・もぅ・・・」
あずさが達する寸前で、光伸は動きを止めた。
余韻だけでも達せそうだったのだが、突然の中断にあずさはもどかしげに身をよじる。
「や・・・。」
言葉にならずに、あずさはただ光伸を大きな目で見詰めた。
「達したいか?」
意地悪く、光伸は尋ねた。
「え?」
あずさは一瞬、きょとんと目を見開いて、それからすぐに頬をよりいっそう赤く染めた。
「や・・・先輩・・・」
あずさは恥ずかしそうに両腕で顔を隠す。
「イキたいんだろ? じゃぁ、自分でしてみろ。俺は動かない。」
光伸はあずさの足を掴んだまま固定した。あずさはこれで、腰を自ら打ち付けることもできない。
「え?」
おそるおそるあずさは腕を外す。
面白そうに自分を見詰める光伸と目線があって、いつから見られていたのかと、また赤くなる。
挿し入れられたまま、それ以上の刺激が与えられないのは、拷問に近い。
もう少しで達する所だったから、体が熱の放出に備えてどこもかしこもビクビクと震えていた。
内側から破裂しそうな固まりが、出口を探して駆け回っている。
もどかしくて、苦しい。
「自分でしたことくらいあるんだろう?」
意地悪く光伸が微笑んでいる。
手淫しろと、そう言っているのだ。
あずさは頭を打ち振るう。そんな恥ずかしいことは出来ない。
「火浦がいやらしいってことは、もう知ってる。俺に隠しても仕方が無いだろう。」
それでもあずさは、目を瞑って頭を振った。
気の遠くなりそうな疼きが止まない。
「俺の言うこと、聞けるよな。」
今度は打って変わった優しい口調。
逆らい難いものを感じて、あずさは目を開けた。
凄く整った顔立ちの、あずさが大好きな、金子光伸先輩が綺麗に、本当に、見惚れてしまうくらい綺麗に微笑んでいる。
こんな恥ずかしい格好の自分を見て。
先輩だから見せられる。先輩にしか見せられない。
いやらしくて淫乱な僕を可愛いと言ってくれたのは先輩だけで。
きっと、他の、たとえば親衛隊なんかは、僕がこんな淫乱だって知ったら、軽蔑する。
真弓も、そして、亜弓姉様も。ああ、亜弓姉様なんて特に。嫌われてしまう。
「いやらしい火浦は、最高に可愛いよ。」
ほんの少しだけ、光伸が腰を押した。
「ああ!」
その刺激が呼び水になる。
じんじんと、体中に回っている快感。行き場を無くした熱いもの。
「ほら。火浦。」
もう一度、腰で促されて、あずさはおずおずと自分のものに手を伸ばした。
指が、触れる。
「んっ。」
それだけで、待ち焦がれたようにあずさが震える。
気持ち良くて、その感覚があれば他は見えなくて、あずさは今度はしっかりと握る。
「そうそう。」
頭の隅に光伸の声を聞きながら、あずさはゆっくりと手を上下させる。気持ち良すぎるから、ゆっくりしか出来ない。
体の中の熱い固まりが、ここにめがけてやってくる。
「う・・あ・・くぅ・・・」
ほんとうに、あっという間に達してしまう。
あずさの手を白い液が汚す。
「上出来。」
光伸がゆっくりと体を倒し、あずさの余韻に震える体を抱きしめる。
優しく口付ける。呼吸の荒い唇からすぐに唇を外し、耳朶を甘噛みする。
あずさの体がぴくりと跳ねる。
どこかからまた、熱いものが出てきて、あずさを変化させる。
挿れられたままの部分が、勝手に、それを呑み込むように収縮する。
「嫌だ・・・もう・・・」
限界だとわかってるのに、勝手に快感を拾ってしまう。
「火浦が淫乱だからさ。」
耳元で、何もかも判ってる風な光伸の声。
「せんぱ・・・」
あずさの涙交じりの声。
「大丈夫。」
甘い甘い声で、光伸はあずさの耳に囁いた。
何度も何度も、頭の中が白くなってもまだ。疲れて意識が途切れてしまうまで、あずさは光伸と体を繋いでいた。
覚えているのは、光伸の綺麗な顔と、甘い声。
大丈夫という囁き。
どんなに自分が淫乱でも、どんなに卑小でいやらしくてどうしようも無くても、先輩がいれば大丈夫だということ。
僕は先輩がいなきゃ、ダメってこと。
どこからか繰り返される、痛くて甘くて気持ちの良い言葉に呑まれたまま、あずさは眠りに落ちた。
光伸はあずさを冷ややかな目で見下ろした。
媚薬を飲んだ年下の相手を、よくまぁこなせたものだ。
なるべく自分の体力を使わないように配慮はしたが。
案の定、火浦あずさは長椅子の上、疲れきって眠っている。
前回は仕置きで排除が目的だったから、性急に快楽を求め過ぎて壊してしまった。
それはそれで面白かったし、そのまま捨てておけるなら、それで良かった。
だが、今回は取り込むのが目的だから、多少は面倒臭いのもやむおえない。
要のための駒を増やすなら、使える駒で無ければ話にならないから。
落とすだけ落としておいて、救う。昔から使われてる手で、ひねりも何も無いが、あずさ相手なら効果的だろう。
光伸は眠るあずさの、汗に濡れた髪を一筋指に取った。
「忠告はしたんだがな。」
元々、あずさが憎いわけでも嫌いなわけでも無い。
むしろ、あの真っ直ぐな性格には好感が持てたくらいだ。
ただ、あずさは要と、そして自分に関わり過ぎた。
子供なりの好奇心と独占欲で、境界線を越えてしまった。
一度で懲りたかと思えば、すっかり忘れて再び来るし。
これでは、取り込むしか無い。関わらずにいられないのなら。
光伸は、そっと、指に巻いたあずさの髪に口付けた。
歪んでいるようで、均整が取れていて、合間を取りつつ離れられず、そして命にも似た。
「さあ、螺旋の関係を始めよう。」
〇久(2003.0703.0821)