人の条件

              3

「おいで、鷹通。」
 友雅は鷹通の手を取って、帳台へと移動する。御簾は閉めない。
「泰明はその辺りにいるといい。」
 友雅から泰明が見えるということは、泰明からも友雅と鷹通が見えるということ。
「友雅殿…やはり…」
 友雅を見上げる鷹通の顔は朱に染まっている。
「…壁代か屏風だと思えば良い…」
 友雅は気にせず鷹通の顎に手をかけ、唇を寄せる。
「ですが…」
 鷹通は嫌がるように顔をそむける。
「…しょうがないね。」
 友雅は鷹通の首の後ろに手を回し、髪留めの簪を引抜く。さら、と音をたてて流れる鷹通の髪。
 そして友雅は鷹通の眼鏡をはずす。
 仕事の、細かい文字を見るときに必要程度の眼鏡なので、外したからといってまったく見えなくなるわけではないが、視界は少しぼやけたものとなる。
「私だけを見ていなさい。いいね?」
 鷹通の顔のすぐ近くに友雅の顔がある。
「…はい。友雅殿…」
 友雅の整った顔と深い色の瞳に魅入られるように、鷹通は頷く。
「いい子だ…」
 友雅は華のような笑みを浮かべた。

 深く唇を重ねる。
 互いの舌を探り合う。
 友雅は鷹通の髪に右手を差し入れる。襟足から、髪の生え際を指でなぞり、たどり着いた耳朶の柔らかさを味わう。
「…ん…んーっ」
 塞がれた唇から、声にならない声が漏れる。
 指が首筋をつたうと、鷹通の体は小刻みに震える。
 友雅は一度体を離し、鷹通の直衣をくつろがせてゆく。
 ふと気づいたように顔をあげる。
「泰明、何故そんなに、眉をひそめているのだい?」
 言葉通り、泰明の表情は怪訝を通り越している。
「わからない。口とは呼吸の器官であり、音を発するため、物を食すための場所だ。それを重ねることに意味を見出すことが出来ない。体を触られただけでそのような浅ましい姿を見せることも、まったく理解できない。」
 泰明の言葉に、鷹通が体を強張らせる。
「若いねぇ。これは君の中にもある『いとおしい』という感情の表現なのだがね。まぁ、まだ判らないのなら、もうしばらく見てるといい。」
 友雅は、鷹通の単に手をかけるが、その手は鷹通に止められる。
「友雅殿…やはり…」
 鷹通が困ったような、泣きそうな顔で友雅に告げる。
「子供の言うことなど気にすることは無いよ。そうだね…」
 友雅は鷹通の右耳に顔を寄せる。
「鷹通は、私の声だけ聞いていなさい。」
 艶のある、甘い声に鷹通は酔う。
「…は…い…」
 友雅を掴んでいた手から力が抜ける。

「可愛いよ…鷹通…」
 耳に囁きを吹き込まれ、鷹通は顔を朱に染める。
「…ふふ…」
 友雅は、顔を鷹通の耳に寄せたまま、右手だけで器用に鷹通の単をはだく。
 鷹通の白く瑞々しい肌を味わうように、顎から首、そして胸へと手のひら全体を使って撫ぜ降ろす。
「綺麗な体だ。」
 友雅は鷹通の耳朶を甘噛みする。
「お恥ずかしいです…私など…鍛えておりませんから…」
 顔をそむける鷹通。
「そんなことは無いよ。綺麗で、しなやかで、そして…」
 友雅は鷹通の胸に赤く色づいている蕾にそっと触れる。
「あ・」
 鷹通の背が弓なりにそる。手が敷布を握り締める。
「…感じやすい。」
 友雅はいとおしげに鷹通を見つめる。
「可愛いね…」
 再び耳に囁きを落とし、耳朶をねぶる。
 首筋に舌を這わせる。右手はなおも鷹通の胸を探っている。
「・・んぁ……」
 鷹通からたち上がる香りが強くなる。甘く、品の良い香りの中に、わずかに混ざる獣の匂い。相手を誘う恋の香り。
 誘われるままに胸の蕾を口に含み、転がす。
 無駄な肉のない腹へ手を伸ばし、指貫の紐を解き、さらに奥へ差し入れる。
「や…友雅殿…」
 鷹通が体を固くする。
 友雅はかまわずに、兆しを見せている鷹通自身を手に握りこむ。
「く…ぅ…」
 つま先まで反り返る鷹通の体。
「ああ。邪魔だね…」
 腰が浮いた瞬間を見計らい、友雅は鷹通の指貫を取り払う。
 夜目にも白い鷹通の肌はうっすらと上気して、所々に赤い印を浮かび上がらせる。
 首筋に、胸に、わき腹に、太ももに。
 赤い花びらのように。

 友雅はその一つ一つに口付け、色を深くする。
 その間も、右手は鷹通自身への刺激を続けている。
「…ん…ん…」
 次第に荒くなる鷹通の呼吸。
 友雅は鷹通で濡れた手を、後ろの蕾へと滑らす。
「…あ、やめ…んんっ」
 友雅の武官にしては優美な長い指が、鷹通の中へと入りこむ。
 固く閉ざれている蕾を、少しずつほぐしてゆく。
 指が増える度に走る緊張感を、鷹通自身への愛撫で解いて。
「ふっ…う…」
 鷹通の足が敷布を滑る。足を閉じようとすれば、なお増す快感に囚われ、足を開けば友雅の指が狙ったように動かす指の快楽におぼれる。
「あぁ…友雅殿…もう…」
 耐えきれずに漏れる鷹通の声は、鼻にかかってわずかに掠れる。
 いつもなら、ここで鷹通を高めて一度目の吐精を促すのだが、友雅はそうはせずに、鷹通の足を高く持ち上げ、自身を穿つ。
「…………くっ……」
 鷹通が息を詰める。
 友雅は鷹通の中をゆっくりと広げる。
 鷹通は引いてしまいそうになる快感を拾い上げようと、友雅に沿うように動く。
 次第に熱を増す二人の肌。
 濡れた音に混じる鷹通の喘ぎが少しづつ大きくなってゆく。
「あ…・・とも・・ま・さ・」
 鷹通の体が小刻みに震え、体が弓なりに反らされる。
 体中を巡る快楽が一点に集中し、開放へ向かって流れようとしたその瞬間。
「わかった。」
 この場に最も相応しくない、感情のこもらない泰明の言葉に、友雅と鷹通の時は止まった。


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