人の条件

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「無粋だね、泰明。鷹通が達しそびれてしまったではないか。」
 やれやれと、友雅は肩をすくめる。
 自分は今だ鷹通の中にある。
「……」
 突然の声に驚き、一瞬にして萎縮してしまった鷹通。
 あられもない自分を見られていたことを忘れていたわけではないが、考えないようにして、考えられなくなって、でも多分無意識に目線を感じて、よけいに乱れてしまった自分に、さらに羞恥を感じて鷹通は身をすくめる。
「で、何がわかったんだい? 泰明。」
 友雅は目線だけを泰明に向ける。
「2人の契りを見ていたら、胸が熱くなって、体に変化が起きた。これが性欲というものだと、わかった。」
 泰明の声はあくまで冷静で、とても性欲を感じているようには聞こえない。
「ふうん。では、こちらに来なさい。」
「その必要は無い。」
「そのままでは性欲を理解したことにはならないよ。」
 低めの友雅の声に、泰明はやや考えてから立ちあがり、帳台へと近づく。
「泰明、服を脱ぎなさい。」
「必要無い。」
「君のために一肌も二肌も脱いであげているというのに、つれないねぇ。
では、君が性欲を理解するために必要なことだと言ったら?」
 からかうような、挑むような友雅の声。
 泰明は黙って自らの衣服を脱ぎ落とした。
 余計な脂肪も、余計な筋肉もついていない細身の体が夜気にさらされる。
 中性的な体の中で、勃ちあがっている部分だけが雄であることを誇示していた。
「泰明? これからどうしたい?」
 泰明は怪訝な顔をする。
「…判らない。」
「体がこうなったことは今までにあるのかい?」
「無い。」
 友雅はふぅとため息をついた。
「それはそれは。」
 そして、今だ恥ずかしげに顔をそむけている鷹通に目を移す。
「もう少し待ってくれればね。鷹通が手本を見せたのに…」
 その言葉でさらに赤くなる鷹通。
「そうだね…。鷹通、泰明に教えてやってはくれないか?
これからどうすればいいのか。」
「それは…どういう…」
「簡単さ。吐精を促してやればいい。」
「なっ!」
「手で…してあげるといい。」
「…できません。」
「人助けだと思いなさい。ここまで付き合ったのだから、最後まで面倒を見てやるべきだろう?」
「………」
「あいにく私は両手がふさがっていてね。」
 友雅は両手で鷹通の腰を掴み、自身を打ちつけた。
 時間を経てもなお質量の変わらない友雅の雄が鷹通の中を圧迫する。
「…あっ!…」
 突然の刺激に引く鷹通の腰を逃がさないように支え、友雅は動き続ける。
「ほら、だから手が離せないのだよ。」
 楽しそうに呟く。
「…んぁ…」
 泰明がすぐそばにいるのに、声を止められない自分に、鷹通はさらに恥じ入る。
「や、やめて…くださ…い。とも…まさ…ど・の」
 再び熱を帯び始めた自分を感じて鷹通は静止の声をかける。
「…やって…みます。」

「泰明殿、近くに来ていただけますか?」
 友雅が鷹通を離さないので、鷹通は体の自由が利かない。
「そう。座って…膝を開いて下さい。」
 鷹通の手の届く場所へ、泰明は正座を崩した格好で座る。
 鷹通は、自分の指と手のひらを舐め上げ、唾液を乗せる。
 泰明は不思議そうな顔でそれを眺める。
「何故そのようなことをするのだ?」
「それは…摩擦の問題で…」
 鷹通の顔が赤い。鷹通は答える代わりに泰明の中心へと手を伸ばす。
 指の腹で先端のくぼみをなぞり、手の平で握りこむ。
「…………!…………」
 泰明が息を呑む。今まで経験したことの無い感覚に、上手く対応できない。
 声を出すこともできず、呼吸ばかりが浅くなってゆく。
 鷹通の指が泰明の鋭敏な部分を撫ぜる。ゆっくりと手を動かし出す。
「……・ … ・・」
 泰明は苦しげに浅い呼吸を繰り返す。体の一点が別の生き物のように息づき始めるのを感じる。知らない感覚が体中に広がってゆく。
「声を…出したほうがいいですよ。」
 鷹通は次第に溢れ出す泰明の雫を先端に塗りこめる。もう手を濡らす必要は無い。
 小さな笑いは友雅から起こった。
「何を?」
「いや、いつも私が鷹通に言っている言葉が鷹通の口から出るなんてね。」
 くすくすと友雅は笑う。
「手本を見せてあげたらどうだい? 鷹通」
 友雅は先ほどまでのゆっくりとした動きを止め、強く打ちつける。
「ああっ!」
 鷹通の口から濡れた声が発せられる。
「泰明、こんな風にね。」
 友雅は鷹通の右足を持ち上げて微妙に角度を変える。
「…あっ・・ん・・」
 先ほどまでとは違う刺激に、堪えようとする気持ちと裏腹に声が出てしまう。
 目を固く瞑り、快感を打ち払うように首を横に振る。
「声を聞いていたいのはやまやまだが…手が止まってしまうね。」
 鷹通の様子を見て、友雅は動きをゆるくする。
 鷹通が目をうっすらと開く。端からこぼれる一筋の涙。
「続けて…鷹通…」
 鷹通は再び、泰明を高めるために手を動かし始める。張った場所に引っかかるように指を添えてしごく。
「…ん…」
 泰明の口から、吐息以外の声が漏れる。
 出してしまった声にさらに乱れる。
 次第に上気する肌。人工的でさえある白すぎる肌が、微かにではあるが桜色に変化する。
「…・う………くっ…」
 陶器のような肌を滑り落ちる汗。
 泰明の体に走る緊張に、限界が近いことを鷹通は悟る。
 開放を促すように、手の動きを強くする。
「ああっ!」
 泰明が一瞬体を硬直させる。
 鷹通の手が白く濡れる。
 泰明は後についた自分の腕に体重をあずけ、浅い呼吸を繰り返した。
「泰明、見えるかい?」
 友雅が穏やかな声で話しかける。
「君の命を継ぐモノだよ。好むと好まざるとに関わらず、これが女性の体に入って、次の命が生まれる。人として、いや、生物として根本的な欲だよ。自分の命を継がせたいというのはね。」
 泰明はまだ体の自由が利かない。
「舐めてみるかい? 自分で出したモノだ。自分で始末しなさい。」
 友雅の声に、泰明の体がゆっくりとおきあがる。
 床に伏せるように体をかがめて、鷹通の手に口を近づける。
「や、泰明殿?」
 驚く鷹通の腕をとり、手に残る白い雫を舐めとってゆく。
「…ん」
 その奇妙な感覚に、鷹通の体が震える。
「いい子だね…泰明。」
 泰明の喉が小さく動く。
「味はどうだい?」
「よく…わからない。今まで食した物とはどれも違う味がする。」
「だろうね。」
 友雅は苦笑する。
「さて。次は鷹通の番だね。泰明、今自分がされたことを鷹通にもしてやってはくれまいか?」
「と、友雅殿、何をおっしゃっているのです?」
 鷹通は耳まで赤い。
「上手く出来たからね。ご褒美だよ。」
「い、いりません!」
「そうかい? でも…  私は乱れた鷹通が見たいね…」
 友雅は抱えていた鷹通の足を下ろし、背中に手をあてて抱き起こす。そのまま後に倒れて、自分の上に鷹通を乗せる格好になる。
 鷹通の手首をそれぞれの手で掴み、自分の腰に手をつかせる。
「泰明、このほうがしやすいだろ?」
 友雅が後の蕾に微妙な刺激を与えつづけているため、鷹通自身は勃ちあがったまま、透明な雫をこぼしていた。
「参考にさせてもらう。」
 泰明が、鷹通がしたように自分の手を唾液で濡らし、鷹通へと手を伸ばす。
「や、やめて下さい。泰明殿?」
 泰明は観察するように目を細めて鷹通自身を凝視する。
 指で先端部分をなぞる。何度も、何度も、少しずつ場所をずらして。
「――――っん…」
 ぎこちない愛撫が逆にじれったいような感覚を生み出して、鷹通は思わず声をあげる。
 泰明の手は自分がされたように動こうとしているのだが、経験の浅さゆえに、微妙に感じる場所を外している。
「・・ん」
 もどかしさに、腰が動きそうになる。
 『ちがう』と言いそうになる自分を、鷹通は必至で堪えた。
「ふふ、少し手伝ってあげよう。」
 鷹通の顔を面白そうに見ていた友雅が、下から鷹通を突き上げる。
「・・あっ、ああっ!」
 刺激に飢えていた鷹通の体は友雅に合わせるよう動く。
 解かれた黒髪が揺れる。汗で張りついた一房だけが動きから取り残される。
 仰け反る首筋。鷹通は友雅の腰に爪をたてる。
「あ・・っく・・」
 泰明の手を濡らし、友雅の腹の上にまでこぼれる鷹通の精。
 鷹通の体から力が抜けて、前のめりに倒れる。
 友雅は両手を離して受け止めた。
「…」
 泰明は、怪訝な顔をして自分の手を眺めた後、一口舐めてみる。
「………また違う味がするのだな。」
「それは鷹通の命を継ぐモノだからね。泰明と鷹通が違うように、それも違うのが当たり前なのだよ。」
 友雅は鷹通の顔にかかる髪を片側へまとめ、首筋に唇を寄せる。
 鷹通の体が微かに反応する。
「それは命そのものだからね。命をかけることの出来る人に渡すといい。君が『いとおしい』と想
う人にね。 ああ、でも無理強いはダメだよ。お互いの気持ちが重なった時にね。」
 泰明は自分の手を見つめる。
「私は鷹通に命を与えられたのだろうか? 私の命も鷹通に?」
 その言葉を聞いて友雅は笑う。
「ふふ。まぁ、八葉としてお互いに命をかけられる存在であることは確かだがね。今夜は特別だよ。何事にも例外はあるさ。」
 真面目だねぇ、と友雅は呟く。
「…さて。性欲も理解したようだし、そろそろ二人だけにしてもらえないかな? 私の命は鷹通の物なのでね。」
「と、友雅殿っ!」
 ぐったりとしていた鷹通は、びっくりしたように顔を上げる。
「おや? 知らなかったのかい?」
 友雅が鷹通の腰を固定して、下から突き上げる。
「…やっ…待っ・・」
 放出の後で鋭敏になっている場所にその刺激は強すぎる。
 友雅が動きを止めると、鷹通は深く息をはく。
「また時間をかけたいのでね。泰明、一人で帰れるかい?」
 泰明は返事の代わりに立ちあがって服を身に着ける。
「礼を言う。」
 友雅と鷹通を振りかえることもなく、泰明は立ち去った。


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