人の条件
6
その翌々日。
鷹通は早朝に思わぬ客を迎える。
「泰明殿? どうなさいました?」
鷹通はどうしても赤くなる顔を気持ちだけでも押さえる。
「どうしても、お前に伝えなければならないことがある。」
相変わらず泰明の表情は読めない。
「なんでしょう?」
「私は…お前のことを考えると、体が熱くなる。友雅がお前にしていたことを、自分でもしてみたくなって、体が変わる。…お前に焦がれているのだと思う。」
まっすぐに鷹通を見つめる泰明の眼差し。
「そ、それは違います!」
鷹通は慌てて否定する。間違い無く男である自分が、同性の欲望の対象になっていると言われても、気持ちよいものではない。しかし、この場合、泰明は自分の感情を理解していない。性教育を受けずに体だけ大人になった子供のようだと鷹通は思った。
「あなたは、生い立ちがどうであれ、今は人の、しかも成人男性の体を持っています。ゆえに、性欲を感じるのは当たり前のことです。しかし、それは恋ではありません。あなたの心は、神子へと向いているのですから。」
諭すように、ゆっくりとした口調で鷹通は泰明に話し掛ける。
泰明は、理解できないといった風に眉をひそめる。
「神子のことを思うと、胸が苦しくなる。それは変わらない。けれど、体は熱いというよりは暖かくなる。苦しいのと穏やかなのと、両方の気持ちが存在する。」
泰明は手で胸の辺りを押さえる。
「それが『いとおしい』という感情ですよ。」
鷹通は微笑む。
「そうかもしれない。だが…」
突然、泰明は鷹通の顎に手をかけ、口付ける。
あまりに突然のその行為に、鷹通は目を閉じることも出来ない。
微かに開いていた口から、泰明の舌が侵入し、鷹通の口腔をなぞる。
鷹通が正気づく頃、口付けた時と同じように、唐突に泰明は離れる。
「この間は口付けに意義を見出せなかったが、今は鷹通とそうしたいと思った。『いとおしい』という感情の表現なのだろう?」
何事も無かったように冷静な泰明の態度。
「な、な、何をっ」
逆に、動揺する鷹通の頬には朱が上がる。
泰明は、そんな鷹通の様子を見て、微笑んだ。
「やはり私は、お前に特別な感情を抱いているようだ。他の者とは違う。それはわかる。」
今まで見たこともない、優しげな泰明の表情に、鷹通はしばし見とれる。
「鷹通の命は、甘いのだな…この間もそう思った。」
泰明が何か納得したように頷く。
「では私は帰る。邪魔したな。」
呆然とする鷹通を残して、泰明は出ていった。